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たねがしまロケットマラソン

たねがしまロケットマラソンに出場。初フルマラソン。4時間38分36秒。記憶に残るフルマラソンデビューであった。

参加申込時に、お天道様に2つお願いをした。当日天気が良くなりますように、そして、膝が痛くなりませんように。きれいな景色を眺めながら観光マラソンができそうなところ、それが、フルマラソンデビューの地としてたねがしまロケットマラソンを選んだ理由だった。

しかし、一つ目のお願いは見事に裏切られた。雨である。しかも、台風並みの豪雨と強風である。前日も翌日も晴れているのに、この日だけ雨である!

大汗をかいたと思えばいい。そう覚悟を決めて、100円のビニールのレインコートを羽織り、スタート地点に臨む。

問題は風だ。たねがしまロケットマラソンは公認コースではない。公認コースであれば、風向きが一定にならないようにコース設計されているため、風は敵にもなり味方にもできる。しかし、たねがしまロケットマラソンのコースは、島を北から南へ縦断するワンウェイだ。この日の風向きは南風。終始向かい風に苦しめられることになる。(後日調べたところ、この日の平均風速は7m強、最大瞬間風速は10mを越えていたようだ)。「50km走るつもりで行こう。30kmでも40%以上の余力を残し、最後の5kmだけスパートをしよう」とレース設計をする。

楽しみにしていた火縄銃の号砲でスタート。「雨でも意外と使えるんだな」という感想を残しつつ、スタート地点を後にする。フルマラソンの参加者は300名程度のため、すぐにばらけて混乱もない。マイペースで走ることができる。前日からさんざん聴かされてきたたねがしまロケットマラソンのテーマソングのサビ「めざせ宇宙!かけろ地球人!過去から未来へ駆け抜けろ!」が頭の中でリフレインする。「地球人ってなんかしっくりこないなあ」と心の中で悪態をつく。

11km付近の雄龍雌龍の岩(おだつめだつのいわ)までは多少アップダウンはあるものの海岸沿いの走りやすいコース。天気が良ければきっととても眺めがよく、そして、とても気持ちよく走ることができただろう。でも、天気のことで文句は言うまい。誰が悪いわけでもない。屋外競技であるかぎり、雨の日もあれば風の日もある。たまたま今日の天気が、自分の力を披露するステージとして与えられたに過ぎないのだ。

コースは、島の西海岸を離れ、東海岸に向けて内陸部に入る。いよいよ山越えだ。このコースはアップダウンが多く、かつ、激しいことは事前に知っていた。昨日島内移動のために乗ったバスがコースの一部を走ったため、その激しさを目で確認することもできた。しかし、知っていることが、実際に走ることに何の役にも立たないことを実感した。百聞は一見に如かず。しかし、体で感じるほどには語ってはくれない。このコースのアップダウンはすごい。3週間前に走った三浦国際市民マラソンもアップダウンの激しいコースとして有名だが、たねがしまロケットマラソンの比ではない。基本的にフラットな部分が無いのだ。上っているか、下っているか、いずれかである。膝はもつだろうか。どうか痛くなりませんように。

「もも、けつ、もも、けつ」。膝に負担がかからないように、腿の筋肉とお尻の筋肉を使うことを意識しながら、坂を上り下りする。「もも、けつ、もも、けつ」。上り坂のときは、トレーニングのときと同じように、普通のストライドで回転数を落として走るようにする。当然ペースは落ちるが、結構楽に上れる。いい調子だ。

28km地点を通過。ここからは、トレーニングでも走ったことのない未知の距離になる。まだ膝は痛くない。「天気が良くなりますように」というお願いは聞き入れられなかった。それならば、もう一つの「膝が痛くなりませんように」というお願いは聞き入れて欲しい。本来ならばお天道様が燦燦と輝いているはずの南の空を仰ぎ見る。南国にしては冷たい雨がただただ顔に降りかかるばかりであった。

そして、魔王はやってきた。31km付近で右膝の外側に違和感を感じ始める。まだ痛くはない。しかし、いずれ痛くなるであろう違和感だ。あと10kmだが、35km付近の最大の難所の大坂はまだ越えていない。「不安」という目が右膝に集中する。ちょっとのことが気になり、「不安」を増大させる。目をそらせ!景色を楽しめ! そのとき突然雨が激しくなった。滝に打たれているようである。一瞬、膝の違和感を忘れる。こういうのを恵みの雨と言うのだろうか。

35km地点。いよいよ最大の難関の大坂にさしかかる。急だ。そして長い。膝の違和感が、オセロの駒を裏返すように、少しずつ痛みに変わっていくのが分かる。見上げると、歩いている人が何人もいる。スタート前のレース設計どおり余力は残してきたので、まだまだ足は動く。「膝の痛みで走れなくなるまではとにかく走り続けよう。絶対に歩くな」。

そしてついに頂上。「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」。本当ならば気持ちよく下り坂を駆け下り、上り坂のロスを取り戻す予定だった。しかし、ここから風が猛烈に強くなった。上昇気流が山肌を吹き上がり、体を押し戻す。なかなか思うように坂を駆け下りることができない。

しかも、風は平地に降りても治まる気配を見せない。せっかく余力を残していてもラストスパートがかけられない。沿道のたねがしまロケットマラソンの旗が千切れんばかりに翻る(写真)。トレッドミルでも走っているかのように前に進まない。風景が変わらない。ずいぶん走ったつもりでも、ちょっと首を横に向けるだけで、見覚えのある景色がまだそこにある。くそっ。膝は痛いが、まだまだ走れる。余力もある。それなのにペースが落ちるのがとても悔しい。

それでも終わりの無いレースは無い。なんとか種子島宇宙センターにたどりつき、最後の直線の下り坂を駆け下りる。全行程中、この直線だけが南から北へ向かう。さっきまでずっと敵として戦ってきた風が後押しをしてくれる。これまでの健闘を讃えるかのように。

ゴールでは一人一人ゴールテープを張ってくれる。手を上げてゴールテープを切り、そして小さくガッツポーズをした。

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